天然鰻は美味いか?

一般的に流通している動物系の食料品の中で、天然物と養殖物が存在するのは恐らく魚介類ぐらいであろう。
牛・豚・鶏などは全てが養殖物で、天然物など私の知る範囲では存在しない。
技術的に養殖が不可能な物や、資源量が豊富で、売値も安価なため養殖の必要性が無い物もあり、蛸や烏賊、魚類でも鰯や秋刀魚などは天然物しかない。
やはり値の張る物はコストをかけて養殖しても採算が合う、鮪・鯛・鰤・平目・鰻などがそうだ。

私はここ数年、鰻に関してはほぼ天然物しか食っていない。
これは自分で釣るからであって、なかなか贅沢なことをしてるなとも思う。
もちろんそれの為には多大な労力と忍耐力も要求されるのだが、そうまでして食いたいのはやはり「美味い」からである。
どんな風に美味いかと言うと、身と皮の食感が実に素晴らしく、脂がのっているにもかかわらず、その脂が上品で舌に残らず香りも良い・・・ といったところでしょうか。
では、「天然鰻は養殖鰻よりも美味いのか? 」と問われると、それがそうとも言い切れない。
結論から書いてしまうと「天然鰻は美味いのから不味いのまである」となります・・・ 
当然のことなのだが、育った環境(主に水質や餌)で大きく味に差が出るのである。
それに対して、養殖鰻は養鰻業者の方々の努力と技術によって品質が安定していると言えます。

天然鰻と養殖鰻を比較する時によく「ブロイラーと地鶏の違い」などと評されるが、私はこれは外れていると思う。
地鶏といえどもやはり人為的に飼育されたことに変わりは無く、天然とは違う。
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画像は上の1本のみが天然で、下の2本は養殖です。
色が違うことに気づかれたと思いますが、この天然はいわゆる「アオ」と呼ばれる物で、養殖は青みがかった灰色をしています。
長さはほぼ同じなのですが、明らかに養殖のほうが太いですよね。
で、生長期間で言えば、稚魚の段階からこのサイズに育つまでに環境にもよりますが、概ね天然は5~6年、養殖は半年ぐらいです。
つまり同じようなサイズであっても年齢が全く異なります。
自然界においては5~6年を要するところを、養殖では配合餌などを与えて、人工的に半年ほどでこのサイズに成長させるわけで、人間に例えると養殖鰻は「肥満児」ということになるのでしょうか?
この時点で天然と養殖を比べることはかなり無理があると思います。
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ちょっとグロい画像になってしまいますが、肝の比較です。
上が天然、下が養殖の肝です。
天然の肝に比べて養殖はいわゆるフォアグラ状態・・・ 要するに脂肪肝ですね。
つまり養殖物はかなりメタボであることが解ります。
天然物と養殖物、どちらを好むかは個人の主観によるところが多く、味の好みも人によって千差万別ですので、どちらが美味いかを結論付けることはここでは避けます。
ブロイラーを食べなれた人には地鶏の弾力に富んだ肉質は硬いと感じるでしょうし、味の濃さを臭みと感じるかもしれません。

鰻に関してもやはり同じようなことがいえると思うのです。
現在日本で流通している鰻の99パーセント以上が養殖鰻で、天然物は極一部の高級鰻料理店などでしかお目にかかることはできません。
しかし、天然鰻そのものは完全海水域から遥か上流域、湖沼や都市部の河川などおおよそ水のあるところならどこにでも居ますし、かなり汚染の進んだ河川にも居るため、水域で味や香りはかなり変わってきます。
つまり、商品として通用する質の高い天然鰻は極一部で、鰻そのものの数や鰻漁師さんの数も限られているためにかなりの高級品となってしまうのです。
そんな天然鰻ですが、私の場合は自分で釣った物だけでなく、全国の仲間が釣った物を食べる機会が年に数回あります。
多い時では10箇所近い産地の鰻を同時に食べる幸せに恵まれるのですが、見事なぐらいに産地別の特徴があり、実に興味深いものがあります。
メンバーは水質や魚質に拘った人が多く、持ち寄られる鰻は概ね高いレベルにあると思う。
しかし過去には口に入れた途端に強烈なケミカル臭がして、身の危険を感じるほどの代物に出会ったこともある。
その鰻が釣れたポイントけっこうメジャーなポイントで、多くの釣り人がそこで釣った鰻を食べていることになるのだが、そのポイントの鰻しか食べたことの無い人にはこれが天然鰻の味ということになるようだ。
釣った本人は「手前味噌」で正確な判断が出来ないかもしれないが、それを食べた第三者は恐らく「天然は不味い」と感じるだろう。
 
「天然鰻は美味いのから不味いのまである」・・・ 今シーズンの鰻釣りは実質的に終了したが、来年も私をはじめ、全国の仲間達は「美味い天然鰻」を求めて夜の水辺を徘徊することになるだろう・・・