鰻うんちく①

前記事の大会以降、なんやかやと忙しかったので、2週間ぶりの更新となります。
さて、今回は鰻に関する様々な誤解や俗説、疑問について書いてみたいと思います。
記事の内容に関しては大半が「うな研」のコンテンツ内のものを簡略化したもので、今後訂正する場合もありますので、予めご了承ください。


其の壱・「えっ!鰻って養殖じゃないの?」
今年は春先からメディアがこぞって「シラスウナギ不漁・食卓から蒲焼が遠のく」みたいなニュースを流していますが、これを見た人の中には「えっ!鰻って養殖じゃないの?」と驚く人がいます。
これは半分正解で半分間違いです。
まず、養殖の定義ですが、大きく分けて2種類あり、完全養殖と蓄養があります。
前者は成魚から卵を採り、人工孵化の後に成魚にして、さらに成長し大魚から卵を採って人工孵化させることが出来ます。
そして後者は天然魚の稚魚や小型のものを捕獲し、生簀や養殖いかだや養殖池などに入れ、成長を待つものです。
ただ、この蓄養にも何種類かあるようで、JAS法によると給餌するものを養殖と位置付けています。
で、鰻はどちらに該当するかというと後者、つまり蓄養になるのです。
つまり、鰻の赤ちゃんであるシラスウナギが不漁になると、当然養殖鰻の値段が上がるという仕組みなのです。
因みに、現在日本で流通している鰻の99%以上がこの養殖鰻なのです。
イメージ 1
一番上が天然鰻の「アオ」と呼ばれる色合いのものです。
下の2匹が養殖物で、光線の加減にもよりますが、養殖物はこのような青みがかった灰色系の体色です。

其の弐・「東京の背開き、大阪の腹開き」
関西と関東の蒲焼きを語るうえで、最も誤解や俗説が多いのがこの辺りです。
江戸は武家社会で、腹開きは切腹に通じるから背開きになった。
大坂は商人の町で、腹を割って話すから腹開きになった。

なるほど、一見実にもっともらしい話ですが、実はこれはとんでもない間違いなのです。
なぜ関西と関東でこのような違いが出たのか、実はこれをちゃんと説明できる人は鰻屋さんにも意外と少ないのです。
恐らく、客から質問されたどこかの店主が苦し紛れに放った言葉が、まことしやかに広まったものと思われます。
それならば、江戸では全ての魚類を背開きにしているでしょうか?
鯵の開きはどうですか?また他の魚も調理の際には背開きも腹開きも存在するはずです。
逆に関西でも鰻以外の魚は背開き腹開きが混在しています。
イメージ 9     イメージ 10
関西の腹開き                            関東の背開き

では、なぜ西と東で割き方が分かれたのか?
先ずは蒲焼の歴史からお話ししますね。
蒲焼きの「蒲」の字は「蒲の穂・ガマノホ」からきています。
何故かというと、江戸時代初期もしくはそれ以前に始まった鰻料理の最初のスタイルは、現在のように鰻を開いて焼くのではなく、筒切りにした鰻に串を刺して焼いていました。
イメージ 11  イメージ 2
私の友人が再現した古式蒲焼です。             蒲の穂です。

江戸時代中期には現在のように開いて骨を取り除いたものに、醤油などを使ったタレをつけて焼く現在のスタイルの基本形が登場します。
私の友人の、キャパ大好き鰻職人が、古文書や浮世絵、その他文献を調べまくったところ、どうやら関東でも初期のころは背開きにしていたようです。
ここで少し話が横道にそれますが、関西と関東の蒲焼きの大きな違いとして、「蒸し」という工程が存在します。
ご存じのように、関東は白焼きにしてから「蒸し」を入れ、その後にタレをつけての本焼きで仕上げます。
対して関西は、白焼きからそのまま本焼きへ移行します。 いわゆる「地焼き」と呼ばれる調理法です。
なぜこのように調理法が分かれたのかは、書けば実に長くなるのでまたの機会にということで、今回は「腹開き・背開き」に焦点を絞りますが、結論から言ってしまえば、この「蒸し」の工程の有る無しで「腹開き・背開き」に分かれたのです。
武士も商人も全く関係ありませんヽ(^o^)丿

関東では一匹の鰻を何等分かにしてから短い竹串を打ち、白焼きにしてから蒸籠に移して蒸しをかけます。
対して関西は一匹丸ごとの頭付き鰻を何本も並べて、まとめて長い金串を打って焼きます。
イメージ 3  イメージ 4
関東の串打ち                        関西の串打ち

イメージ 5 イメージ 6
関東の焼き                          関西の焼き

関西と関東の調理法の相違点として、蒸す・蒸さない・長い金串・短い竹串となりますが、先ず、蒸籠に入れて蒸すためには長い金串に何本も鰻を並べるよりも、短い竹串に一切れずつのほうが都合がよいのです。
イメージ 7 イメージ 8
左が腹開き、右が背開きですが、印の部分に串を打っていくわけですが、細くて滑りの良い金串ならば腹開きの薄い断面でも刺しやすいのです。
対して、金串に比べ、滑りの悪い竹串を刺す際、腹開きにしてしまうと断面の外側が薄くなり実に刺しにくくなります。
つまり、調理工程の違いが竹串と金串の相違を生み、それがまた「腹開き・背開き」の割き方の違いを生んだわけです。

ここまで私のどないでもええようなうんちくにお付き合いくださった方の中には、「なぜ関東は短い竹串なの? 腹開きでも短い金串にすればええやん」と思われる方も多いかと思いますが、これは要するに熱伝導率の問題らしいです。
竹に比べ熱伝導率の高い金串は、柔らかさを目指す江戸焼きには不向きなうえ、焼き手の指も熱いからです。

え~と・・・・・・ 他にも「腹開き・背開き」の東西の境界線や、関西・関東以外の地域の蒲焼き事情について書こうと思ってましたが、急激に眠気が襲ってきたので、今回はこのへんで・・・